皆様こんにちは。
前回から記事を投稿させていただいているひよどりです。
前エントリーの続きです。
グランプリシリーズ欠場をめぐるシカゴトリビューンの記事より。
今回の契約問題の背景の一部として、1994年に始まった米国のフィギュアスケートバブルとその崩壊、フィギュア連盟から選手が受け取って来た報酬の変遷などについて書かれています。
終盤には、日本のファンにとっては気になるところも。
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After taking last season off from competition, Lysacek decided in June he wanted to return to serious training and allowed USFS to enter him in two Grand Prix events, one in the U.S., the other in France. He did not talk publicly about the comeback until my Sept. 23 interview with him, when he said both the ultimate goal was the 2014 Olympics, and he was still unsure about going to Skate America a month later.
昨シーズン競技を休養したあと、ライサチェクは6月に厳しいトレーニングに戻ることを望み、連盟が彼をグランプリシリーズの2試合にエントリーすることを受け入れた。一つはアメリカ大会、もう一つはフランス大会である。彼は、私の9月23日のインタビューまで、公式には復帰について語らなかった。その時彼は、最終的な目標は2014年のオリンピックで、一か月後のスケートアメリカの出場はまだわからないとも言った。
Meanwhile, the men's competition at Skate America was awful -- and it ended with no U.S. man on the awards podium for the first time in the 30-year history of the event.
一方、スケートアメリカの男子競技はひどかった--大会の30年間の歴史で初めて、米国男子が一人も表彰台に乗れないまま終わった。
But let's get back to the core issue, which Hamilton alluded to when he said, "the business of skating has changed."
だが、問題の核心に戻ろう。それはハミルトンが「スケートビジネスは変わってしまった」と言った時に暗示したことだ。
One question is how well CAA understands that. The agency has had minimal relationships with figure skating and figure skaters -- especially compared to IMG, which has been intimately involved with the sport (sometimes too intimately) for years.
一つの疑問は、CAAがそれをどれだけ理解しているかということだ。この事務所はフィギュアスケートとフィギュアスケーターに対して最小限の関係しか持って来なかった--特に、何年もの間このスポーツと親密に(時には親密すぎるほど)関わって来たIMGと比較すると。
Although Bezic's remark about financial gain was ridiculous (why shouldn't a skater with Lysacek's career record profit from it?), the business has changed so much that it would be hard for the U.S. federation to pay Lysacek anything near what it did Michelle Kwan, Tara Lipinski, Sarah Hughes, Kimmie Meissner, Sasha Cohen, Timothy Goebel and Michael Weiss from 1997 through 2005.
ベジックの金銭的利益に対する意見はおかしなものだが(なぜライサチェクのキャリア記録を持つスケーターが利益を得るべきではないのか?)、ビジネスがとても変わってしまったので、スケート連盟にとって、ミシェル・クワン、タラ・リピンスキー、サラ・ヒューズ、キミー・マイズナー、サーシャ・コーエン、ティモシー・ゲーブル、そしてマイケル・ワイスに1997年から2005年に支払った額に近いものをライサチェクに支払うのは難しいだろう。
Each of the skaters in the previous paragraph (other than Lysacek) made in excess of $100,000 from appearance fees (the totals also include prize money funneled through USFS) during one of those years, as the federation reported in its tax filings under the category of the top five independent contractors making $100,000 or more in a year.
前述のスケーター達(ライサチェクを除く)はそれぞれ、当時一年あたり10万ドルを超える報酬(米国スケート連盟を通して受け取る賞金を含む)を受け取っており、それはスケート連盟の納税申告書の年間10万ドル以上報酬のある上位5人の独立契約者のカテゴリーに記されている。
Kwan, the most decorated U.S. figure skater in history, earned $6.3 million from 1997 through 2005 (best year: $899,000 on the 1998 tax filing).
史上もっとも華々しい米国のスケーターのクワンは、1997年から2005年の間に630万ドルを獲得している(最高額は1998年の納税申告書にある89万9千ドル)。
Cohen made from $315,000 to $473,000 from 2002 through 2005; Weiss pulled in $505,000 in 2003, Hughes $518,000 in 2002, Goebel $353,000 in 2002, Lipinski $433,000 in 1997.
コーエンは2002年から2005年にかけて31万5千ドルから47万3千ドルの利益を得、ワイスは2003年に50万5千ドル、ヒューズは2002年に51万8千ドル、ゲーブルは2002年に35万3千ドル、リピンスキーは1997年に43万3千ドル。
(FYI: Tax filings are for a fiscal year, so Lipinski's 1997 earnings, for instance, were from July 1, 1997 through June 30, 1998 -- the months following her U.S. and world titles and including her 1998 Olympic title).
(参考までに:納税申告書は会計年度1年間のものであり、例えばリピンスキーの1997年度の報酬額は1997年7月1日より1998年6月30日まで--彼女の全米選手権・世界選手権のタイトルと、1998年の五輪タイトルを得た月が含まれている)
And the tax filing had to list only the five highest earners. There were others making six figures.
そして納税申告書は高額報酬者の上位5人のみ記載しなければならない。その他にも6桁の報酬を受けた者がいる。
They were in the right place at the right time, when ABC was throwing money at the sport.
彼らは、ABCがこのスポーツに資金を投入していた丁度いい時に、丁度いい位置にいたのだ。
For the big earners, the bulk of the money was appearance fees to guarantee they skated on ABC shows like Skate America and the pro-ams U.S. Figure Skating once ran. Those fees came out of the TV revenues, which reached $12 million annually in the final eight years of ABC's contract with USFS.
高額の稼ぎ手にとって報酬の大部分は、ABCが放映する、スケートアメリカやスケート連盟が一時期主催していたプロ・アマチュア競技会などで演技する出演料だった。これらの報酬はテレビ収入から出ており、テレビ収入はABCがスケート連盟と契約した最後の8年間では年間1200万ドルに達していた。
In the two most recent USFS tax filings, through June 30, 2010, no skater is listed among independent contractors earning more than $50,000 a year (the IRS lowered the reporting level).
2010年6月30日までの最新2回のスケート連盟の納税申告書には、独立契約者の中で年間5万ドル(米国税務局が申告額を引き下げたので)以上の報酬を受けたスケーターはいない。
(World champion ice dancers Meryl Davis and Charlie White will show up on the 2011 filing because they made $128,500 in prize money during that period.)
(アイスダンス世界チャンピオンのメリル・デイヴィス&チャーリー・ホワイトは該当期間中に12万8500ドルの賞金を獲得したので2011年の申告書に記載されるだろう。)
The explanation for the huge drop in skaters' incomes is simple: a huge drop in television money.
スケーターの収入の大幅な下落を説明するのは、単純なことだ。TVマネーの大幅な下落である。
ABC did not renew after 2007, when interest in skating had dwindled to the point USFS settled for an NBC deal with no rights fee to keep the sport on over-the-air television. It is basically a profit-sharing arrangement.
ABCは2007年から契約を更新しなかった。その頃スケートへの関心は、米国スケート連盟がこのスポーツの地上波テレビ放映を維持するために、放映権料がないNBCの契約を受け入れるまでに低下したのである。契約は基本的に利益分配制になった。
ABC had been paying the USFS $4.5 million a year in a four-year contract negotiated just before the Tonya-Nancy soap opera leading to the 1994 Olympics turned the sport into a cash cow. When a new deal was struck in 1997, it gave USFS a $10.5 million annual net from television for several years.
ABCが、4年契約で1年あたり450万ドルをスケート連盟に支払い続ける契約を結んだのは、1994年の五輪前のトーニャ(ハーディング)とナンシー(ケリガン)のメロドラマがこのスポーツをドル箱に変える直前だった。1997年に新しい契約が取り決められた時は、1年ごとにテレビのネットワーク放送に1050万ドルを数年に渡って支払うことになった。
The difference since then is enormous.
その当時からの違いは途方もない。
In 2008, the USFS independent auditor's report said the net television revenue for the 07-08 fiscal year (the transition year to the NBC deal) was $231,000. The numbers for 2009 and 2010, listed as "broadcasting and licensing," were $1.8 million and $2.4 million, respectively, with 90 percent of that coming from broadcasting.
2008年には、連盟の会計監査報告書によると、07-08会計年度(NBCの契約に移行した年)のネットテレビ収入は23万1千ドルとなった。2009年と2010年の「放映及びライセンス料」として記載されている数字は180万ドルと240万ドルで、それぞれ、90%が放映料である。
Those numbers show encouraging growth but also make it abundantly clear that the federation doesn't have the funds it once did for skaters like Lysacek, no matter how much he deserves such largesse. The federation says it now gives no skater or couple more than $50,000 a year, and that is for training expenses based on past performance.
それらの数字は心強い成長を示しているが、しかしまた、連盟がかつてライサチェクのようなスケーターに支払っていた資金を持っていないことも非常に明らかにしている。例え彼がどんなに気前の良い援助に値したとしても。連盟は現在、どんなシングルスケーターおよびカップルにも、年間5万ドル以上は与えず、またそれは過去の実績に基づくトレーニング費用だと言う。
USFS told me that had Lysacek signed the standard current athlete agreement, he would have received $40,000 to fund his training and other expenses. That is the maximum USFS gives to a singles skater in its "A" tier, for which just the two reigning national champions qualified this season. Three ice dance couples qualified for team compensation up to $50,000.
スケート連盟は私に、ライサチェクが標準の現在のアスリート協定にサインしたなら、彼はトレーニング資金と他の経費のための4万ドルを受け取っただろうと語った。それは連盟が「A」チームにいるシングルスケーターに与えられる最大額である。今季、Aチームの資格を持つのは二人の現全米チャンピオンのみである。3つのアイスダンスカップルが5万ドルまでのチーム報酬の資格を持っている。
Maybe Lysacek is asking for so little extra, relatively, that USFS seems silly not to give it to him. (If that's the case, CAA should be making it for him.) But if the federation gave Lysacek more, it would have to do the same at least for Davis and White, who were unbeaten last season. And maybe reigning Grand Prix Final and U.S. champion Alissa Czisny, fifth at 2011 worlds, also would want more.
おそらくライサチェクは比較的、ほんの少々、余分な要求をしているだけなので、連盟がそれに応えないのは愚かに見える。(もしそうならば、CAAは彼のためにうまくやるべきだ。)しかし、もし連盟がライサチェクにこれ以上与えた場合、少なくとも先シーズン一度も優勝を逃していないデイヴィス&ホワイトにも同様のことをしなければならない。そしておそらく、現グランプリファイナルと全米チャンピオンで2011年の世界選手権5位のアリッサ・シズニーもさらに要求するだろう。
The federation undoubtedly thinks it made a concession to Lysacek in allowing him to skip the pre-season "Champs Camp" mandatory for all U.S. athletes scheduled to compete on the Grand Prix circuit. USFS spokesman Reichert said Lysacek was excused after having made the federation aware "in advance" of a prior commitment.
連盟は、グランプリシリーズに出場する全ての米国選手に義務づけられたシーズン前の「チャンプスキャンプ」の不参加をライサチェクに許したことを疑いなく譲歩だと考えている。米国フィギュア連盟スポークスマンのライヘルトによると、ライサチェクは連盟に「あらかじめ」先約があったと了承させたあと、不参加を許されたという。
The question of who owes whom and what is complicated.
誰が誰に何の借りがあるのか、問題は複雑だ。
Some argue Lysacek is being an ingrate after years in which the federation provided some financial support for his training.
ライサチェクが何年もの間連盟が彼のトレーニングに提供した資金面のサポートを受けながら、恩知らずになったと主張する者もいる。
I say he repaid that investment -- with interest -- by winning world, Olympic and Four Continents Championship titles; two other world medals; three world junior championship medals; and 12 medals in his last 12 appearances on the Grand Prix.
私は、彼はその投資は返済したと言おう--利息をつけて--世界選手権、オリンピック、四大陸選手権の優勝、その他に世界選手権の2つのメダル、世界ジュニア選手権の3つのメダル、そして、間近の12回のグランプリの出場で12個のメダルを勝ち取ったことで。
(その3につづく)
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「チャンプスキャンプ」とは、8月のフレンズオンアイスと日程が重なったチームUSAキャンプのことですね。
震災後の日本に無理を押して来日してくれたのがとてもうれしかった反面、連盟との関係に影響を及ぼしていたのかと思うと非常に複雑な気分です…。
4 件のコメント:
確かに、フレンズに来てくれた事で複雑になったかと思うと複雑ですね。
彼が無理に要求をごりおしするような人格ではないと信じていますし、
いずれにしても早く解決して、競技に戻り、また素敵なスケートを見せてほしい。私達の希望はそれだけではないですかね。
こんなに長文の和訳、本当にありがとうございます。
感謝いたします。
minamin様
私が残念だと思っているのは、米国でこの記事を読んだ人のほとんどが、なぜエヴァンさんがチャンプスキャンプをスキップしたのかわからないことなんですよね。
例え知ったとしてもエヴァンさんの言う「先約」が「日本のアイスショー」と知ってどう思うかわかりませんが……。
FOIというショーにも、震災後の日本に来るということにも、エヴァンさんには特別な思い入れがあったと私は信じているのですが、それだけにこの事態は胸が痛いですね。
キャンプのスキップや、「恩知らず」云々の話がこの記事に出ているのは(そしてハーシュ氏がはっきり記事中で反論しているのは)単に金額面の問題でなく、エヴァンさん側と連盟の間で、感情面での行き違いがあったことを暗示しているのでしょうね。
加えて、海外掲示板などではフィギュアの世界に不案内なCAAの交渉の仕方が連盟の感情を逆撫でしたような話も出ていましたが、この記事を読むとさもありなん、という感じがします。
エヴァンさんの欠場という形で問題が公になった以上、仕切り直してなんとか穏便な形にまとまって欲しいと思うばかりです。
海外ボードでは、FOI出演をチャリティーイベントへの参加と捉えて、責めるべきではないとの意見も見ました。たしかに、CAAが他の選手と異なる交渉方法で臨んできたことに、連盟側が当惑しているような感じはします。先日のコメントで触れたELFFのメンバーの投稿の中に、連盟幹部は”they were not accustomed to dealing with agencies who represented people such as George Clooney for million dollar contracts.”と言った、との記述があります。原文はこちらですので、興味のある方は読んでみてください。
http://z9.invisionfree.com/evanlysacekfan/index.php?showtopic=2239&st=105&#entry13949123
ところで、最新号のWFSにこの件に関する記事が載っていることはご存知の方も多いかと思います。本日ちょっと立ち読みしてきましたので、まだ読んでいない方のために内容をご紹介します。(立ち読みしただけなので、間違いや思い違いがあったらすみません。)
筆者は田村明子さんで、読者の方の中にはあまりよくない感じをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、彼女の今までの記事に比べるとこの記事は冷静な感じで、私個人としてはそんなにいやな感じは持ちませんでした。(耐性がついてしまったのかもしれませんが。笑)内容としては、USFSAの幹部に取材したとのことで、連盟側の言い分についていろいろと書いてありました。それによると、ABCとの放映契約が終了したあと、新たな契約先のNBCからは放映権料を受け取ることができなくなった。その時点で選手たちに、今後はかつてのような出演料を払うことはできないと通告した。今回のスケートアメリカでも、NBCは運営経費の一部を負担しただけだった。ライサチェックはGPSアサインの後、契約書にサインしないままだったが、試合日に間に合えばよいので放置しておいたところ、9月になって契約条件を要求してきた、というようなことが書いてあったと思います。
ライサチェックは試合出場を決める前にこういうことをクリアしておくべきであったとかイメージダウンになった、対応を誤った、などの筆者の意見は相変わらず辛口ですが、連盟側の状況についての記載は興味深いものがありました。連盟側もメディアやファンに金銭問題をことさらアピールするのはちょっとどうかと思うのですが、それが彼らの戦略なのかもとも思います。しかし、この記事の内容が事実だとすると、ライサチェック側は9月まで何をしていたのでしょうか。新たなエージェントとの間でいろいろと打ち合わせがあったのかもしれませんが。
ちなみに、WFSにはFOIの記事もありましたが、エヴァンの写真はタンクトップ姿のものが1枚ありました。
また、他の雑誌も見てみたのですが、「フィギュアスケート2011-2012シーズン オフィシャルガイドブック」という本に、ライサチェックのページがありました。ここにもFOIのタンクトップの写真が使われており、文章は田村さんですが、オリンピック後のさまざまな活動や、復帰に向けての期待など、普通に良いことが書いてありました。「フィギュアスケートファン2012」という本にも紹介ページがありました。写真はオリンピックのフリーのもので、紹介文は簡単なものでした。
casaverde様
いろいろ詳しい情報ありがとうございます。
WFSの田村さんの記事については、私も言及しようかどうか迷っていました。
実はこの訳文は、元々、自分が読むためにこつこつ訳していたものなんです。
それをAFLに投稿しようと思ったきっかけは、WFSの田村さんの記事を読んだことなんですよ。
私は心が狭いのか、田村さんの記事にはけっこう心がざわめきました(笑)。
あの記事は連盟側の言い分だけが元になっていますよね。
エヴァンさん側からはコメントが取れなかったのでしょうが、それにしても、連盟の言い分だけを聞いて選手を批判する論調は、私にはとてもフェアとは思えなかったのです。
ハーシュ氏の記事は少なくとも田村さんの記事では触れられていないエージェントの問題点や具体的な金額の変遷、また、キャンプのスキップの件など、金額の問題だけではなさそうな部分も書かれていますからね。(casaverdeさんがおっしゃるとおり、連盟側が金銭面の問題をアピールしているのは私も気になっていました)
そんなこともあって、ハーシュ氏の記事が日本のエヴァンさんのファンの目に少しでも止まって欲しい一心で訳を投稿させていただきました。
ただ、田村さんの記事でわかったこともあるので、その点は感謝しています。
交渉の開始が九月というのは私も驚きました。
ひょっとするとIMGからCAAへの移籍がスムーズに行かなかったのかもしれませんが…
エヴァンさん自身に非がないとは思っていないのですが、それにしても、エージェントの対応次第ではここまで問題が大きくならなっかったのでは、という気がしてなりません。
他の雑誌の情報もありがとうございました。
なぜかエヴァンさんのFOIの写真は、どの雑誌でもタンクトップですね。
それだけカッコよかったということでしょうか…
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