2009年9月2日水曜日

鐘の前奏曲を聴き比べてみる。

昨日思わずtwitterに書いてしまったけれど
「鐘の前奏曲」のオーケストラ版が予想以上に
原曲のイメージと違ったので、じっくり検証してみることにしました。


まずは原曲。知らない方はどうぞ。
アシュケナージさんの演奏です。




そしてオーケストラ版。
ストコフスキー編曲で、マオちゃんが使うのもこのアレンジらしい。
ボリューム小さいから各自上げてください。




いかがでしたでしょうか。
各自おのおののご感想はあると思いますが
以下は全て私の独断と偏見によるつぶやきですので
特に読みたくない方はスルーでお願いします。


なんていうか・・・

オーケストラ版、あまりにチープに聞こえます。
まず冒頭のパーカッション、ティンパニーとシンバル等が
入った時点で私はアウトですね。コーヒー吹きそうになりました。
なんつーか、観音さまでも登場したのかと思ったよ(←酷い例えだな)

前半部分はヴァイオリン等、弦楽器で主旋律を奏でているわけですが
これがトレモロなのがいただけない。
震えた音というのは、弱く、か細く聞こえるし
メロディー全体をトレモロで奏でてしまっているので
全体的にしっかりしないというか、ぶれた感じがする。
すでにメロディーじゃなくて虫の鳴き声みたい(←これも酷い例えだな)
あるいは死者とかお化け声のイメージ。
むしろクラシックというよりテレビのホラースペシャルのテーマ曲みたい。

あと、低音・中音の和声を金管楽器でとってますが
これまた非常にチープなイメージに。
そもそも金管楽器は私は大衆的な音だと思っているので
あんまり好きな音色じゃないんですが(これは好みの問題)
個人的には、この曲の和声を、特に下の音を
金管楽器がとるのは合わないんじゃないかと思う。
原曲のピアノとあまりにスペクトル(音色)が違うからなのか、
曲の基盤となる中低音が金管楽器だと違和感が大きく
それが全体的に感じる安っぽさを演出しているような感じがする。

むろん、オーケストラ特有の曲の広がり感だとか、
楽器が多いからできる演出はあるんだけど・・・
原曲の良さを生かしたものでは全くないと思う。
むしろそれを狙ったのか、全然別のものを作ったつもりなのかは
編曲者に聞いてみないとわからないですが。
とにかく原曲が好きな人間としてはショックなわけですよ。
もっと言うと、この曲のどこが「鐘」なの?っていう感じ。
ううむ、私がピアノ弾きで原曲が好きという時点で
原曲に肩入れしてしまうところはあるんですけれど
仮に、先にオーケストラ版でこの曲を知っていたら
あとから原曲を聞いたときにすごく驚くと思うんですよね、良い意味で。
「原曲はこんなに素敵な曲だったの!?」って。
私にとって、そのくらい原曲の良さを損ねてるアレンジですよこれは。


で、何でこんなアレンジになっちゃったんだろうと思って
編曲したストコフスキーのプロフィールを見たら
この人は指揮者ですが元々はオルガニストだったんですね。
そこで少し納得した。最初聞いたときに
「どう考えても確実にこれはピアニストの編曲ではない」
確信を持ったから。それほどの違和感だった。
オルガンとピアノは、一見同じ鍵盤楽器に見えますが
楽器としての存在理由というか、役割は似て非なるものです。
ピアノの成り立ちにはオルガンの存在が絶対外せないのだけど
ピアノがある程度楽器として完成された頃から
この二つの楽器は異なる道を歩み始めたといいますか。
奏法も鍵盤の配置が同じというだけで、タッチは全く違う。
鍵盤を押したり離したりする過程が、オルガンの方がより
デリケートなものだと言われます。
(そもそもピアノは鍵盤を押したらハンマーが弦を叩く、
オルガンの場合は空気をパイプに流し込むという原理的な違いがある)
だからそれぞれのために書かれている曲も構造がかなり異なるわけです。
その点でいうとピアノの曲の方が、より自由度が高い譜面になるのかと。

そしてこの「鐘の前奏曲」は、曲の構造としては
ピアノ的でありながらオルガン的な側面もあるんですよね。
例えば前半・後半の和声はオルガンの響きが合うし
中間の音がバラけるところは非常にピアノ的。
で、ストコフスキーのアレンジを聞くと
その中間部分があまり効果的な演出がされてないと感じるんですよ。
曲は盛り上がってるのに、楽器の音色がついていってないというか。
劇的なものがそこにはない。予定調和で盛り上がった、そんな感じ。
ピアニストであれば、この中間部分はより劇的に聞こえるような
アレンジを施すと思うんですよね。
いや、うるさく楽器をガンガン鳴らすとかではなくて
聴衆の印象に残る、という意味で。
その点、前半と後半はかなり凝ったアレンジをしていて
そこに彼のオルガニストとしての精神を感じますね。
いっそのことオーケストラにオルガンを入れてしまえばよかったのに。
その方がよほど曲としての重みがあったんじゃないかなあ。


さんざんこき下ろしてしまいましたが(スミマセン)
これ、競技で流す際には録音したものを補正して
曲のダイナミックレンジがやや平坦な状態で使われると思います。
おそらく少し大きめの音で演奏されてるだろうし。
じゃないと全体的に静かすぎて盛り上がらないから競技に使えない。
会場でうるさく流れるんだろうなあ。やーだなー。
他にも多くのエフェクトを加えて、
よりゴージャスに聞かせようとするでしょうが
果たして会場でどんなふうに聞こえるのやら。
おそらく私は「うるせー、なんだこれ」って思うんだろうな(苦笑)


ふと、仮に自分ならこの曲をどうアレンジするか?
ということも少し考えました。
アレンジしないのが一番いいのは言うまでもないけど(笑)。
うーん、私だったらオーケストラ編成にはしない。
弦楽四重奏にピアノを加えて、中間部のメロディーは
ヴァイオリンにソロで激しくやってもらってピアノで補佐しますね。
それもチープになるんだろうけどさあ・・・


というわけで、長い愚痴にお付き合いいただいてありがとうございました。
皆様の所感などもよければお聞かせくださいね。

2 件のコメント:

奈々氏 さんのコメント...

拝聴しました、オーケストラ版。

「鐘」じゃない…これは…(苦笑)。大好きなピアノ原曲に感じるような、ヨーロッパの重い空の色や数多の鐘楼から低くそして高く鳴り響く音が湿った大気で拡張され、増幅され追い立てられるような焦燥感みたいな感じが全然…(あ、これは私個人の勝手すぎるイメージです)。
原曲は間違いなくイメージは「鐘」なんですよねー。うーん…。
自分は実は真央ちゃんスキーなんですけれども、だからこそ彼女には原曲で滑って欲しいですねー。今さらですけれども、こればかりは。

Askarose さんのコメント...

奈々氏さま:

「鐘」じゃないですよねえ(苦笑)。「鐘」っぽくしようと色々鳴らしてるけれど、私もヨーロッパの教会のような鐘の音色にはどうしても聞こえないんです。むしろ除夜の鐘とか、仏教系の鐘の路線になってるような気が・・・。本当に原曲とは路線が違いすぎて「こんなの『鐘』じゃないー!」って叫びたくなりますね。まして、マオちゃんがこれで滑ることで原曲を知らない多くの人に、これが『鐘の前奏曲』だと認知されてしまうと考えると・・・それだけで悲しいですね(涙)

私もマオちゃんには原曲で滑って欲しいです。彼女はせっかくピアノの音が似合うわけですし・・・このオーケストラ版だと、彼女のスケートさえも安っぽく見せるのではないかとイヤ~な予感がします。っていうかこれがオリンピックの曲なのか・・・ああ、泣きたくなってきますね(涙)。タラソワ先生・・・なぜにこのバージョンをお選びになったのやら・・・

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...