(この翻訳は2009年6月29日に公開されました)
※雑誌記事の翻訳につき、原文の転載は控えさせていただきます。
ライサチェックの改革: 全米王者の新しい姿
-「Blades on Ice」2009年2月号より
ロシアの非凡なコーチ、タチアナ・タラソワと一緒に仕事をすることは、全米代表のエヴァン・ライサチェックに期待できる殆ど最後の手段といっていいだろう。彼のスタイルは決して古典的ではない。彼自身、特別な親近感をロシアに抱いているわけではない。さらに、バレエに対してはわずかな嫌悪感さえ認めている。おそらく彼は人生における挑戦をした、というのがタラソワに指導を受けた正確な理由なのだろう。怪我と失望のシーズンの後は、完全に自分を見直すための時間だったのだ。
「僕は新しいスタイルと外観を欲していました。タチアナには全部変えてくれと頼んだんです。まさにその通りのことを彼女は僕にしてくれました。素晴らしい経験でしたよ!」
しかし、それは容易いことではなかった。一緒に仕事を始めるにあたって、ライサチェックはそれまでごく少数のスケーターがしてきたように、彼女を信頼しなければならなかった。スタイルや選曲から最終的な振り付けのニュアンスまで、彼のスケートのあらゆる面に彼女が決定権を持った。
「自分で全部コントロールすることをあきらめて、タチアナにありとあらゆる点で僕を思い通りにさせるって約束したんです」。彼がモスクワに足を踏み入れた時、すでに衣装の裁断が行われていた。
その瞬間からハードワークが始まった。新しいプログラムを作り、新しいキャラクターに取り掛かることは全てのスケーターにとって挑戦である。しかしライサチェックにとって、それはこれまで彼の人生の大部分でしてきたスケートから脱皮して、まったく新しいスタイルを受け入れることを意味していた。リズミックなボレロをショートプログラムに、ガーシュインのクラシカルなラプソディー・イン・ブルーをフリープログラムに取り入れることになった。彼曰く、この二つの音楽は「自分では決して買わないプレゼントみたいなもの」だそうだ。
そして、毎日、少なくとも一時間半以上のバレエのトレーニングが始まった。バレエはすでに彼の毎日のルーティンワークの一部になっている。
「バレエは役に立ちます。だけど、あまり好きじゃないんだ」と彼は、ブロッコリーの皿を手渡された子供のような表情で笑った。
「僕がこの二つのプログラムが本当に好きだと言えるようになったのは、たくさんの努力のおかげです。これらのプログラムは僕自身のように感じています。どんどん僕の一部になってきているような感じなんです」
おそらく最も重要なのは、タラソワが彼の気持ちに火をつけたことだろう。
「彼女は僕に喜びを与えてくれたんです」。それに大げさな褒め言葉は殆どない。最終的に一番大切なのは他人からどのように見られるかではなく、氷の上に足を踏み入れたときの必要以上の活気なのだという。
「これらを滑っているときはいつも、プログラムの中にタチアナの一部を感じるんです。彼女はこれらの中にものすごい情感とエネルギーを込めてくれましたから」
彼自身を改革したいという欲求は、悪いシーズンの後にしばしば生じた。2008年世界選手権の数日前にライサチェックのブレードが折れ、彼は氷の上に叩きつけられた。彼は肩を脱臼し、肩と肘のじん帯を損傷したのだ。その怪我によって彼は残りの試合のシーズンから欠場し、彼のエネルギーとこの競技へのとてつもない愛情を消耗した。モスクワへの旅は彼に新しい生活を与えたのである。
ライサチェックの新しいシーズンが開幕したとき、彼は元気付けられると同時に幸福感を感じていた。10月のスケートアメリカで彼の新しいスタイルが発表されたとき、順位はあまり重要でないように見えた。
「僕は自分のプログラムが本当にいいものだと感じています」と、クリーンに滑ったショートプログラムとフリープログラムで全体で3位に終わった後に彼は言った。「そのことが、去年やってきたこと全てからの進歩だと思っています。それが僕のより大きな目標なんです」
そしてエヴァン・ライサチェックが幸せと感じるときは、観客がそれに一役かっているのだという。
「僕はお客さんの方に目をやって、ハッピーな表情を見たかったんです」と彼は言った。難解なプログラムでも、ライサチェックは自分のやることが観客に何かをお返しすることができると信じているのだ。
「スケートというのは個性的なスポーツです。なぜなら僕たちはフェイス・マスクやマウスガード、ゴーグル、ヘルメットは着用しませんから。誰もが僕たちの表情を見ることができて、それで僕たちはお客さんとのつながりを明確にすることができるんです。だから、もしスケーターが『しまった!』っていう顔をしたら、お客さんは心配してしまいます。だけどハッピーであるように見えたら、彼らもまた嬉しくなるのです。それは簡単なことじゃないけど、僕はそうすることが重要だと思っています」
彼にとって不運なことに、ジャッジは喜ばしい採点をしなかった。今シーズンの二つのグランプリシリーズにおいて、ライサチェックは期待に及ばずスケートアメリカとスケートカナダ両方で銅メダルに終わった。両方の試合においての問題点は、彼のパフォーマンス全体ではなかった。四回転を除いて、ライサチェックは精力的に三回転ジャンプを組み込んだパフォーマンスを滑りきった。しかし二試合の間における三度において、彼のジャンプ(トリプルアクセル)は、彼がよくやってしまいがちなわずかな回転不足によって、三回転が二回転へとダウングレードされた。(数ポイントを失ったこの結果は、全米チャンピオンをグランプリファイナルへの出場を断念させるほど深刻なものだった)
ライサチェックは今シーズンのジャンプコールの以前より厳しいやり方に対して意義を唱えている。
「ジャッジの下す得点は正確なものです」とスケートアメリカの後に彼は言った。
「問題はジャンプコールとダウングレードなんです。ジャッジは冷酷なダウングレードをするようになりました。どうしてみんな(難しいジャンプを)諦めようとするのだと思いますか?もしプログラムの後半にトリプルアクセルをするなら、それはダブルではなく、トリプルアクセルと認定されなければいけないんです」
それ以外の点では、ライサチェックは各方面からの高まる批判を受けているこの採点システムについて、異議を唱えるつもりはないようだ。実際、彼は様々な異なるスタイルにジャッジが報いていると感じるこの採点方法を喜ばしく思っている。
「今の採点方式では誰もが同じように見えるという人もいます。僕は男子シングルにおいてはそう言い難いと思うんです。僕は皆が違って見えると感じています。選手達はみんな、よりレベルの高いものを求めて、彼らにとって効果的なスタイルや外見を模索しています。ジョニー(ウィアー)を見てください。彼はとても優雅で滑らかです。他に誰が、同じくらい優雅で滑らかだといえますか?一方で、タカヒコ・コヅカはキレがあってとても素早いですよね。体型だってみんな違います。ジャッジは選手達がそれぞれ違ったように見えて、それぞれのジャンプやスピンも異なるように見えつつあるのを受け入れ、正当に評価し始めているんです。それが、一人のスケーターを他の誰かよりもより優れていると見なすことでしょうか。違いますよね。僕がスケートアメリカで嬉しかったのは、そういった異なるスタイルやテクニックが報われたことなんです」
今シーズンの経験にも関わらず、ライサチェックは、多くの若いスケーターたちが取り入れている最も新しい角度のある動き方を認識している。
「僕が本当に見るのが好きなのは、ミキ・アンドウやカロリーナ・コストナー、ステファン・ランビエールのようなスケーターです。僕が好きなのはそういったスタイルなんです」
他に彼の大のお気に入りの選手は、偶然にも1998年にガーシュインのラプソディー・イン・ブルーで優勝したイリヤ・クーリックである。ライサチェックは今年、スターズオンアイスの初仕事の間に、クーリックと一緒に仕事をして、パフォーマーとしてプロ中のプロである彼に近づく機会に恵まれた。
「皆さん、本当にすばらしいキャストでした。彼らと一緒に仕事をしてすごく楽しかったです。イリヤ・クーリックは僕の大好きなスケーターの一人で、彼のこれまでやったプログラムは全部好きなんです。彼は練習のときに僕を助けてくれましたし、彼と一緒に仕事するのは素晴らしかった。それからユカ・サトウも大好きです。トッド(エルドリッジ)も素晴らしいですね。とても良い経験だったし、このツアーがどういうものなのかがわかり、そして僕がこの場に持ち込むことができるものは何か、いい考えが浮かびました」
ライサチェックはこのツアーに定期的に参加することを計画し、来春のスターズオンアイスの10公演への出演をちょうど契約したところだという。
トレーニングや試合、ショーの出演、スポンサー獲得のための活動でぎっしりのスケジュールにも関わらず、ライサチェックはすぐに彼の大きな情熱となるもののための時間を見つけている。それはチャリティー活動である。多くの有名人が自分の名前を貸し、ときどき慈善活動の時間を選んでいる間に、彼はより熱心かつ私的な形でこの活動に魅了されているようだ。おそらくそれはとても個人的な消失 -子供の頃からの友人でありスケート仲間だったステファニー・ジョゼフが今年4月に亡くなったこと - が、悲劇によって人々の命が病に襲われることに対して、一石を投じたいという彼の欲望に火をつけたのだろう。
ジョゼフが長いガンとの戦いで亡くなってからすぐに、ライサチェックはイリノイ州のメイク・ア・ウィッシュ基金とのコラボレーションである「An Evening of Hope」のスポンサーと出演するスケーターの両方を得るために、モスクワにいるときでさえも電話をかけていた。このショーは9月27日にライサチェックのホームタウンの近くにあるイリノイ州ジェニーバで開催され、大成功を収めた。
ライサチェックは、ニューヨークの学齢児童に達する少女達のためのカリキュラムであるFSH(Figure Skating in Harlem)の一員でもある。このカリキュラムのためにスターがたくさん集まる募金イベントは「星空の下のスターたちとのスケート」と名づけられており、来年の4月にセントラルパークのウォルマンリンクで開催される予定だ。ライサチェックはスペシャル・オリンピックスやロナルド・マクドナルド・ハウスにも参加している。彼の恵まれない人々に対する協力への強い呼びかけによると、たとえ地元のマクドナルドハウスへの1ドルの寄付でも、自分の思いを率直に表現することに変わりないのだという。
「こういった組織の活動で行っていることは、家庭での暮らしに一石を投じることなのです。メイク・ア・ウィッシュ基金では彼らに病院や医者、医療費のことを短期間の間忘れさせる機会を与えます。彼らと会って知り合うことは僕を満たしてくれます。僕は今、こういうチャンスやプラットフォームを持っているのです。なぜなら僕はアスリートで、世界をよりよくして、もっと美しいものにする組織と一緒に活動することができるから。それを活用することができて、僕はとてもラッキーですね」
しかしながら、近い将来にライサチェックは目前のある作業に焦点を合わせることになっている。彼のプログラムとジャンプを厳しい試合へ向けて、前もって改良しなければならないのだ。全米選手権では男子の試合が最後となり、スケートの試合としては珍しいセッティングである。ライサチェックは男子シングルへの関心の高まりが、ジョニー・ウィアーとのライバル関係への注目によるものだということを認識している。
「男子シングルへの関心が高まることはいいことですね」と言った後に彼はすぐに、(アメリカチームの)全体像が、その中の二人であること以上に重要な意味があるのだと付け加えた。
「僕が本当に誇りに思っているのは、今年はチームUSA全体が見ることができて、全部の部門において、とても強いスケーターがたくさんいると言えることです。僕たちは国際試合を制覇することでしょう」
ライサチェックはきっと、その中で先頭に立っていることだろう。
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(以下、訳し終えた雑感)
2009年全米前の結構古い内容なのですが、
プログラムに対する気持ちや、好きなスケーターの話など
それなりに興味深いものがあったので掲載しました。
毎度ながら参考程度にお願いします。
っていうか、きっとすでに優秀な訳が出回ってるんだろうなと
思うのですが(探してないけど)、まあ自己満足ということで。
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