(注:この記事は2009年4月11日に書いています)
世界選手権のライサチェック雑感。
<SP:ボレロ>
ほぼ毎度のことながら、結果を知ってから放送を見たけれど
このボレロはシーズンを通して格別だった。
ローリー最終版によってこのプログラムが
ものすごい名作になったと言っていいと思う。
ファンの贔屓目はあるにしろ、それでも彼の歴代プログラムの中で
もっとも秀逸なものではないだろうか。
どちらかというとライサは役を演じる方が得意なタイプだと
個人的に感じていて、音楽表現だけに特化すると
リズムに合わせるのは得意ではないというし、
クラシカルな音楽はあまり知らないというので
今回のこの選曲は彼にとって難しいのではないかと予想していた。
タラソワ版のときはリズムに遅れないよう必死、という感じで
たとえジャンプが全部成功していても
安心して見ていられる類のものではなかったと思う。
そのライサが、あんな表現ができるなんて。
従来のファンでさえも気づかなかった、
彼の中で眠っていた新しい魅力が氷上で爆発したように感じた。
本当に、人を凌駕する超人的なものを見ているようだった。
「あれは本当に人間なのか」と思わせる演技に
何度見返しても魅入ってしまう。
世の中には「何度見ても良い」と思えるスケートはたくさんあるけど
私は彼のこのSPは生涯忘れないと思う。
そのくらい絶大なインパクトだった。
スコアとしては、彼のベストではなかったけれど
この演技を見た後、私はすでにスコアはどうでもよくなっていた。
あれだけの演技を見てしまうと、どの要素で何点取ったのかなんて
全く下らないことのように思えてしまう。
素晴らしい演技というのはそういうものなのだろう。
改めてスコアを見返してみるとフリップにアテンションマーク。
最後のスピンはレベル3。点数の取りこぼしはこのくらいかと。
でも本当に、そんなのどうでもいい!
たとえジュベールやベルネルのクワドがいくら巧くても
パトちゃんやタカヒコヅカのスケート技術が優れていても
ノブナリンが壁にぶつかるくらいのスピードでも
この日のライサには誰も敵わない!と言いたい。
得点はジュベたんに負けちゃったけど、そのへんは誤差ということで
あえてスルーさせてください(苦笑)
<フリー:ラプソディー・イン・ブルー>
個人的に、前日のSPにはひたすら圧倒されたけれど
このフリーには胸の奥からこみあげるものがやまないという感じでした。
ボレロを「人を凌駕する超人」と例えるなら
ラプソディー・イン・ブルーは「飾らない彼自身」といったところか。
それまで私は役を演じている彼のスケートが好きだった。
だけどこのフリーを見て、彼は何かを演じなくても
氷上で十分魅力的な存在なのだとわかった。
他の選手が着たらちょっとキザだったり、古めかしく見えるはずの
濃紺なタキシードをすんなりと着こなすことができるのは
彼が本当の紳士の素質を持っているからなのだろう。
奔放なラプソディーに時に振り回され、突き放され、
それでも音をつかまえて、その間にジャンプを次々と決めていく。
従来ならば「迫力のある」とか「エネルギッシュな」とか形容されるはずの
彼のステップは、軽快で自由に、洗練された動きを持って
リンクを駆け抜けていった。
音楽のスローパートは、前はうんざりするほど長く感じたのに
最終版になって「もっと見ていたい」と思わせるパートへ変わった。
そしてゆったりとした音楽に組み込まれた、
怒涛のジャンプの連続もくどくなく、詰め込みすぎた感じもなく、
さらりと終わってしまった。
ジャンプのパートがこれほどすんなり終わるプログラムがあるなんて!
そして終盤のストレートラインでは彼と会場の想いが重なり
見ていて気持ちが熱くなる。
終盤に向かうにつれて、ゴールへ一番乗りで向かうような気持ちになり
最後のスピンでは誰もが終わるのを待ちきれずに彼を祝福してしまう。
本当に最初からすれば考えられないくらい、
このフリーは人の気持ちを揺るがすものになったものだと思う。
最初はもっと人をあっと言わせるような方向を目指していて
それが空回りしていた感じがあったけれど、
ローリーによって名作へ仕上がった。
彼が本来持っている優しさや生真面目さ、暖かさ、
そしてどことなく面白い雰囲気を、見事に表していた。
本来「自分」のパーソナリティをキャラクターとして
魅力的に売り出すことは非常に難しいこと。
なぜなら本当に魅力的な人物でない限り、
他人から魅力的に見えるはずがないから。
だから役を通して自分を魅力的に見せる手法の方が
従来はやりやすいはずで、彼はそれに長けていると思っていたけれど
彼はもはや、何かを演じなくても本当に魅力的な男だったのだ。
私はファンとして彼の人柄も魅力的だとわかっていたはずなのに
氷上で彼自身を感じることを、なぜか望んだことがなかった。
だけど、これほどのものを見せられてしまったら
今後、これ以上どんなパフォーマンスを望めるだろうか?
もはや彼はどんな役を演じても、自分以上に魅力的に演じられるだろうか?
そう考えてしまうくらい、このラプソディー・イン・ブルーの彼は
本当にチャーミングだと思う。
技術的なことをいうと、スコアを見たらマイナスがなかった。
それには思わず驚いて印刷してしまったけれど
改めて見返すと、疲労骨折の影響もあってか
このスコアは彼の能力を全て証明したわけではない。
本当なら彼はクワドをやりたかったと思うし
今後の試合でも本調子なら間違いなく挑んでくるだろう。
ファンとして彼はこのスコア以上の能力を持っていると確信しているし
今回のワールドはSP、フリー通して良い演技ができたことが
最大の収穫のように思う。
「優勝」という結果については、これは他の選手の出来にも
左右されたところがあるけれど、出場者の中で一番出来が良くて
伴ったものなのだから何のケチのつけようがないはず。
それまでの試合では一番出来が良くても勝てなかったり
内容と結果が伴わない試合が何回かあっただけに
こうもすんなり優勝に結びついたのは少し驚いてしまったけど。
それにしてもボレロもラプソディー・イン・ブルーも
当初と比べてずいぶん進化したし、
最初目指していた「ニュー・エヴァン」を堪能できる形となって何より。
個人的には彼がこんな表現ができるようになるなんて
シーズン当初は思いもしなかったので、成長が本当に嬉しいです。
これ以上書くとまとまらなくなるので、この辺で終わりにしておきます。
ああ、フリーの感想をどうにか書けて良かった。
感極まりすぎて一生書けないんじゃないかと思ってました(苦笑)
0 件のコメント:
コメントを投稿